本研究では、苦味受容体もしくは甘味受容体を発現する味細胞に、それぞれ特異的に経シナプス性トレーサー(WGA-DsRed)を発現するトランスジェニックマウスにおいて、苦味もしくは甘味受容味細胞から移行したWGA-DsRedを受け取るニューロンの脳内局在を可視化することで、苦味もしくは甘味情報を受け取り処理するニューロン群(味覚伝導路構成ニューロン)を同定した。WGA-DsRedにより標識される苦味伝導路構成ニューロンと甘味伝導路構成ニューロンの細胞体が大脳皮質内でどのような三次元的空間配置を示すかを、脳の前頭断連続切片・水平断連続切片から、DsRedの蛍光検出により高空間分解能で比較した。大脳皮質味覚野内で、甘味受容味細胞から移行したWGA-DsRedを受け取る甘味伝導路構成ニューロンに比較し、苦味受容味細胞から移行したWGA-DsRedを受け取る苦味伝導路構成ニューロンの細胞体の多くは後方に配置するが、一部前後径的に重複が見られた。大脳皮質の苦味伝導路構成ニューロンのニューロン種を明らかにするため、VGLUT1・VGLUT2・GAD65/67の発現を免疫組織学的に検出し解析した。大脳皮質味覚野の味覚伝導路構成ニューロンは、橋結合腕傍核・視床後内側腹側核の味覚伝導路構成ニューロンからの入力を受ける。口腔内への苦味刺激もしくは内臓感覚刺激(腹腔内への塩化リチウム投与)後に活性化される脳内ニューロンを、Zif268の発現を免疫組織学的に検出することにより可視化し、橋結合腕傍核・視床後内側腹側核・大脳皮質味覚野内のWGA-DsRedで標識された苦味伝導路構成ニューロン群が、苦味情報を選択的に受け取るか、苦味情報と内臓感覚情報の双方を受け取るかを解析した。
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