本研究では特定の味覚情報を伝える経路をトランスジェニックマウスにより可視化し、味覚伝導路構成ニューロンが苦味・甘味の識別にいかに関与するかを明らかにすることを目的とした。味覚入力を受け取る最初の脳部位である延髄孤束核、次の橋結合腕傍核、視床後内側腹側核、大脳皮質味覚野内で、甘味受容味細胞から移行したトレーサー(WGA-DsRed)を受け取る甘味伝導路構成ニューロンに比較し、苦味受容味細胞から移行したWGA-DsRedを受け取る苦味伝導路構成ニューロンは後方に配置する。橋結合腕傍核においては、苦味受容味細胞からのWGA-DsRedを受け取るニューロンは後方medial側だけではなく、前方のexternal lateral側にも局在した。口腔内への特定味覚刺激もしくは内臓感覚刺激後に活性化される脳内ニューロンを、最初期遺伝子Zif268の発現を免疫組織学的に検出することにより可視化し、橋結合腕傍核・視床後内側腹側核・大脳皮質のWGA-DsRedで標識された味覚伝導路構成ニューロン群が、特定味覚情報を選択的に受け取るか、複数の味質情報を受け取るか、内臓感覚情報を統合するか、その入力選択性を精査した。橋結合腕傍核の苦味伝導路構成ニューロンにおいて、後方medial側のニューロンはLiC1の腹腔内投与による内臓感覚刺激によっては活性化されず、口腔内苦味刺激により選択的に活性化された。一方で橋結合腕傍核external lateral側に局在する苦味伝導路構成ニューロンは、内臓感覚刺激および口腔内苦味刺激により活性化され、苦味情報と内臓感覚情報を統合する可能性が示唆された。大脳皮質味覚野は橋結合腕傍核および視床後内側腹側核からの入力を受ける。特定の味覚情報を選択的に特殊な大脳皮質領域に伝える経路および、味覚情報を内臓感覚情報と統合した後、大脳皮質や扁桃体に伝える経路が存在することが示唆された。
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