本研究は交感神経-副腎系が咀嚼筋の血流調節における役割とそれらの咀嚼筋の血流障害との関連性を明らかにすることを最終的な目的としている。これまでに咀嚼筋の血流動態に対する循環カテコラミンの影響とそれらの反応のメカニズムに関する一連の研究から(平成21年度)、循環アドレナリンは咀嚼筋(咬筋)にアドレナリンβ受容体を介する血管拡張反応を誘発することが明らかになった。本年度(平成22年度)は生理的条件下での交感神経-副腎系の活性化が咀嚼筋の血流に対する影響とそれらの反応に関わるメカニズムについて検討した。その結果、1)副腎髄質を支配する交感神経節前線維の生理的範囲での電気刺激はラット咬筋に血管拡張反応を誘発する及び2)この血管拡張反応はICI118551(アドレナリンβ_2受容体選択的遮断薬)の静脈内投与によって顕著に抑制されるが、アテノロール(アドレナリンβ_1受容体選択的遮断薬)では影響されないことが明らかになった。したがって、交感神経-副腎系の活性化によって分泌されるアドレナリンは咀嚼筋にアドレナリンβ_2受容体を介する血管拡張反応を誘発し、交感神経緊張時における急峻な咀嚼筋の血流増加に関わることが示唆された。 咀嚼筋の血管に分布する頸部交感神経線維の活性化は一貫して血管収縮反応を誘発することが知られている。したがって、交感神経-副腎系によって調節される体液性の血管拡張反応と交感神経性血管収縮反応との協調関係は交感神経緊張状態における咀嚼筋の血流維持に重要であり、これらの協調関係の破綻は咀嚼筋の血流障害の発症機序や病態に密接に関連していることが推測される。
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