マクロファージは細菌感染、慢性炎症性疾患、腫瘍において生体防御機構に関与しているだけでなく、病変形成にも主要な役割を演じている。従来よりTh1細胞由来IFNγの刺激により活性化したマクロファージは、M1マクロファージ(炎症性マクロファージ)として分類され、抗腫瘍活性を持ち細胞性免疫において中心的な役割を演じている。一方、Th2由来のIL-4/IL-13により刺激されたマクロファージはM2マクロファージ(抗炎症性マクロファージ)として分類されている。 本研究課題ではM2マクロファージへの形質獲得にかかわる遺伝子発現の制御機構および口腔癌病変におけるM2マクロファージの局在について検討を行ってきた。これまでに、我々は(1)口腔扁平上皮癌組織に浸潤しているマクロファージはM2マクロファージであること、(2)IL-4およびIL-13によりM2マクロファージのマーカー遺伝子であるarginase-1(Arg-1)の発現が時間依存的に誘導され、低酸素によりさらに増強したこと、(3)IL-4、IL-13により誘導される転写因子STAT6の核内移行および転写活性は、低酸素により抑制されるという知見を得た。そこで、Arg-1遺伝子プロモーターのどの領域が低酸素による発現増強に重要であるかを検討するために、ルシフェラーゼアッセイを行なった。その結果、IL-4およびIL-13刺激によるArg-1遺伝子(-3810)の転写活性は増加したが、低酸素による増強は認められなかった。一方、-2365コンストラクトおよびSTAT6結合配列の変異コンストラクトではほぼ完全に転写活性が抑制された。これら結果は、IL-4、IL-13によるArg-1遺伝子の発現には-3810~-2365の領域が必要であるが、低酸素での発現増強が認められなかったことから、この領域以外の転写制御領域がArg-1遺伝子の低酸素よる発現増強に関与している可能性が示唆された。
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