唾液腺における水やイオン分泌は、腺房部での基底側から腺腔側への水・イオン輸送が関与する。この輸送は、腺房細胞内を経由する経細胞輸送系と、細胞間を経由する傍細胞輸送系とで制御される。本研究では、ラット顎下腺灌流標本を用いて、傍細胞輸送系の制御について検討を行った。特に、平成22年度に認められたM3ムスカリン性受容体であるピロカルピンによる効果を詳細に検討した。ピロカルピンは用量依存性に唾液分泌を促進したが、刺激を停止した後にも持続した唾液分泌が認められた。高濃度のピロカルピン刺激では、刺激中よりも刺激後の分泌促進が大きくなった。この状態の腺房細胞には形態的な変化もなく、また、水チャネルの一つであるアクアポリン5(AQP5)の局在にも変化は認められなかったことから、細胞障害によるものではないことが考えられた。灌流液中のカルシウムイオンを除去するとピロカルピンによる唾液分泌は抑制された。ピロカルピン刺激時における細胞内カルシウムイオン動態や酸素消費量においても唾液分泌にリンクした持続反応が認められた。蛍光色素であるルシファーイエローを灌流することによる傍細胞系輸送系へのピロカルピンの効果においても、分泌にリンクした反応が認められた。これらのことから、傍細胞輸送系特有の制御よりは受容体刺激による一連の細胞内シグナルが傍細胞輸送系機能と共役していることが示唆された。一方で、細胞実験により、腺房細胞機能の減弱とタイト結合タンパク質のクローディン3の発現低下の関連が示唆されたことから、クローディン3の唾液腺傍細胞輸送系への関与が考えられた。
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