研究概要 |
感覚神経-中枢神経系間の適切な神経回路の形成は,生物が外来情報に適応した行動を選択するための機能基盤である。細胞接着分子Dscamが味覚神経回路形成の制御を通じて摂食行動を決定しているか否かについて検証することを目的として本研究を開始した。前年度までに,甘味および苦味受容細胞の軸索は食道下神経節内の異なる領域に投射してシナプスを形成すること,味受容細胞におけるDscamの発現は甘味物質に対する摂食誘導,および苦味物質に対する忌避行動に必要であることを明らかにしてきた。これらを踏まえて,当該年度は以下の成果を得た。 1.RNA干渉法とUAS-Ga14システムの併用により,甘味または苦味受容細胞で特異的にDscamの発現を抑制したトランスジェニック動物を作製し,syb:GFPの発現を指標に味質特異的な神経回路(シナプスの局在)を解析した。トランスジェニック動物の各味受容細胞は,野生型と同様,食道下神経節へと軸索を伸長していたが,適切な領域でのシナプス形成が阻害されていることが明らかになった。この結果は,Dscamが特異的なシナプス結合の制御を介して摂食行動または味質嗜好性を規定していることを示唆している。 2.P因子転移除去法によりDscamの可変エキソン4の一部を欠失(これにより,Dscamのアイソフォーム数が野生型の60%程度にまで減少する)させた2系統の復帰突然変異体を用いて,二味質弁別法により味嗜好性を解析した。甘味-苦味物質問,および異なる苦味物質問の弁別のいずれにおいても,野生型と有意な差はみられなかった。この結果は,3万種類を超えるアイソフォームの存在が推定されるDscamにおいて,少なくとも2万種類以上の多様性を維持していれば,行動学上,問題ないことを示している。なお,これらの復帰突然変異体における味受容細胞の軸索投射様式とシナプス局在について,現在検討中である。
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