モデルマウス作成に先立ち、既に系が確立しているptc(マウス胚発生において神経管の背腹軸の決定に重要な役割を果たしている分泌性のタンパク質であるShhのレセプター)ノックアウトマウス胎児16匹を用い、ホルマリン固定・パラフィン包埋後、上顎臼歯部を矢状断で厚さ3μmの連続切片として各々300枚作製し、5枚おきにHE染色を施した。そして顎骨内嚢胞発現の有無を検索した。その結果、ptcノックアウトマウスの上顎臼歯部において顎骨内嚢胞の出現をみるのは極めて困難と思われた。 上記作業と併せて、ヒト歯原性嚢胞性病変として、歯根嚢胞、含歯性嚢胞、歯原性角化嚢胞を手術摘出標本から各々10例を抽出し、光顕用にホルマリン固定・パラフィン包埋して連続切片を作製している。これらを用いて顎骨内における嚢胞形成を循環系という観点から明らかにしようとするものである。これらの標本を抽出した理由として、歯原性嚢胞性病変とは歯原性上皮に由来する病変であり、その成り立ちの上から、発育完了後の根尖部歯周組織の炎症に基づく病変、歯の発育に関連して生じる病変、腫瘍性病変とに大別されるためである。それぞれの病変を代表するものとして歯根嚢胞、含歯性嚢胞、歯原性角化嚢胞を選択した。従来にも血管系の解析という観点からの研究は進められてきたが、本研究では毛細血管とリンパ管のそれぞれの走行について区別して観察しようとするものである。近年の免疫組織学的手法の発達により、リンパ管と血管を区別して染色することが容易になってきた。リンパ管内皮細胞に対する抗体としてD2-40を、血管内皮細胞に対する抗体としてCD31およびCD34を用いた。その結果、炎症性病変を呈する歯根嚢胞では、毛細血管・リンパ管ともに数が顕著であるが、含歯性嚢胞、歯原性角化嚢胞では、少数の毛細血管・リンパ管をみるのみであった。
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