前年度に引き続きptc(マウス胚発生において神経管の背腹軸の決定に重要な役割を果たしている分泌性のタンパク質であるShhのレセプター)ノックアウトマウス胎児16匹から得られたホルマリン固定・パラフィン包埋について、左右上顎臼歯部での矢状断で厚さ3μmの連続切片作製をすすめた(計32ブロック)。連続切片には1ブロックにつき300枚作製を目途とし、5枚おきにHE染色を施した。そして顎骨内嚢胞発現の有無を検索した。その結果、ptcノックアウトマウスの上顎臼歯部において顎骨内嚢胞の出現は32ブロック中0例であり、上顎での発現はほとんど無いことが明らかとなった。 上記作業と併せて、ヒト歯原性嚢胞性病変として、歯根嚢胞、含歯性嚢胞、歯原性角化嚢胞を手術摘出標本から各々10例を抽出し、光顕用にホルマリン固定・パラフィン包埋して連続切片を作製した。この作製目的は、顎骨内での嚢胞形成を循環系との関連性について明らかにしようとする目的である。 上記病変を選択した理由としては、歯原性嚢胞性病変とは歯原性上皮に由来する病変であり、その成り立ちの上から、発育完了後の根尖部歯周組織の炎症に基づく病変、歯の発育に関連して生じる病変、腫癌性病変とに大別されるためである。根尖部歯周組織の炎症に基づく病変を代表するものとして歯根嚢胞、歯の発育に関連して生じる病変を代表するものとして含歯性嚢胞、歯腫瘍性病変を代表するものとして原性角化嚢胞を選択した。従来にも血管系の解析という観点からの研究は進められてきたが、本研究では毛細血管とリンパ管のそれぞれの走行について区別して観察しようとするものである。近年の免疫組織学的手法の発達により、リンパ管と血管を区別して染色することが容易になってきた。リンパ管内皮細胞に対する抗体としてD2-40を、血管内皮細胞に対する抗体としてCD31およびCD34を用いた。その結果、炎症性病変を呈する歯根嚢胞では、毛細血管・リンパ管ともに数が顕著であることが明らかとなった。これは炎症性病変によって新生毛細血管・リンパ管が多数形成されることを示している。
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