低酸素環境下で発現亢進してくる遺伝子を網羅的に探索し、低酸素環境下での口腔癌細胞の生存と増殖を可能にしている遺伝子の同定を試みた。DNA microarray法にて、1%酸素濃度の低酸素環境下で培養した口腔癌細胞からRMAを抽出して、正常酸素分圧化で培養した細胞のRNAと比較した。その結果、pim-1と呼ばれるセリンスレオニンカイネースの発現が、低酸素下で亢進していた。pim-1は白血病細胞において発現亢進していることが報告されていたが、固形癌での報告はなかったため、まずRNAレベルでの発現、蛋白レベルでの発現をいくつかの癌細胞株を用いて検討した。正常酸素分圧下でのpim-1の発現は、RNAレベルでも蛋白レベルでも認められなかったが、低酸素分圧下ではほとんどの癌細胞が発現していた。低酸素環境下でのpim-1の発現の意義を検討するために、pim-1の強制発現株の樹立とsiRNAによる発現抑制を試みた。その結果、pim-1の強制発現株では低酸素・低グルコース下で誘導されるアポトーシスが抑制されること、抗癌剤で誘導されるアポトーシスが抑制されることから、pim-1の発現がアポトーシス抑制に働いている可能性が示唆された。siRNAによってpim-1発現を抑制すると、低酸素・低グルコース下で誘導されるアポトーシスや抗癌剤によるアポトーシスに対する感受性が亢進した。以上の結果より、低酸素環境下ではpim-1セリンスレオニンカイネースが誘導されてアポトーシスに大勢となることが示唆された。現在、pim-1の下流にて働く遺伝子を探索している。これらの結果から、癌細胞に特異的に発言するpim-1発現を抑制できれば、抗癌剤や血管新生阻害剤の効果を増幅できる可能性が示された。
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