う蝕罹患象牙質に対するレジンの接着性能が低下する原因としては、特にう蝕罹患象牙質の無機成分量に低下および結晶構造の変化、管間象牙質中の水分量の増加、象牙質コラーゲン性状の変化などが考えられている。特に、Self-etch接着システムでは健全象牙質とのスミヤー層構造・成分の違いも原因のひとつとして考えられる。すなわちう蝕罹患象牙質スミヤー層における有機成分比率の増加により、健全象牙質のスミヤー層と比べ溶解・除去されにくく、レジンモノマーの象牙質への浸透を妨げている可能性がある。 これまでの研究成果から、有機成分溶解作用を持つ6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を応用することによりSelf-etch接着システムのう蝕罹患象牙質に対する接着性能を向上させることができることが判明した。さらに、有機質溶解作用を示すが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に比べ、口腔内での使用に関し安全性の高い次亜塩素酸系機能水の応用をすることにより、Self-etch接着システムにおける健全象牙質への接着性能に対する影響は少なく、次亜塩素酸ナトリウム水溶液より短時間の使用で、う蝕罹患象牙質に対するSelf-etch接着システムの接着性能の向上効果が発現することが示唆された。また、6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液処理後に、MMP阻害効果をもつ抗酸化剤ロズマリン酸の応用を追加することにより、長期象牙質接着安定性を持つ接着界面の形成できる可能性が示唆された。 さらに、本年度の研究成果より、透過型電子顕微鏡(TEM)による象牙質接着界面の微細構造の解析では、6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液および次亜塩素酸系機能水によるスミヤー層中の有機成分の除去効果により、健全象牙質およびう蝕象牙質ともにhybridized smear layerの形成のみられない、またナノリーケージの少ない優れたhybrid layerの形成ができることが判明し、象牙質接合界面の性状を改良することが可能であることが示唆された。
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