研究概要 |
象牙質・歯髄複合体の修復再生過程における歯髄細胞の動態,分化ならびに硬組織形成機構の解明を目的として,幹細胞/前駆細胞マーカーThy-1陽性を示す歯髄細胞の硬組織形成能を評価するとともに,覆髄材Mineral trioxide aggregate (MTA)の生体内での挙動と組織反応について検討した。 1.Thy-1陽性歯髄細胞の硬組織形成能 歯髄のsubodontoblastic layerにThy-1陽性細胞が局在することが明らかにされている。ラット歯髄から分取したThy-1陽性細胞をBMP-2添加条件下で培養したところ,顕著なALP活性の上昇を示し,アリザリンレッド陽性の石灰化基質も早期に観察された。また,Thy-1陽性,陰性細胞をヒドロキシアパタイトとともに皮下移植すると,硬組織形成が陽性細胞群で有意に多く観察された。Thy-1陽性細胞は,in vitroおよびin vivoにおいて高い硬組織形成能を示すことから,歯髄創傷治癒過程において象牙芽細胞へと分化して歯髄の修復・再生に関与することが示唆された。 2.覆髄材Mineral trioxide aggregate (MTA)の生体内挙動と組織反応 MTAをラット皮下組織内に移植し,組織-MTA界面部近傍での各種元素の分布状況の変化を観察するとともに,移植体周囲結合組織をTEMにて微細構造学的に観察した。MTAをラット皮下組織内に移植すると,MTA表層部におけるCa溶脱層の形成とSi,A1の集積,およびMTA表面における結晶様構造物の沈着が生じた。さらに,MTA周囲の結合組織中では針状結晶様構造物の形成が確認された。MTAから溶出したCaと組織中のPが反応して結晶様構造物が形成され,これらが覆髄後の硬組織形成に関与している可能性が示唆された。
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