研究概要 |
本研究課題は,生物学的な作用を発揮するような覆髄材の開発を念頭に置き,修復象牙質の形成メカニズムの一端を明らかにすることを目的として研究を進めてきた。本年度は,Timp1の転写とWnt/β-catenin経路の関係についてMDPC-23を用いて解析し,また一方で,窩洞直下歯髄におけるβ-cateninタンパクの局在についても免疫組織化学法を用いて解析を行った。その結果,MDPC-23をTIMP1添加条件下で培養したところ,TIMP1の濃度依存的に増殖が抑制される傾向が認められたのに対し,石灰化については50ng/mlのTIMP1を添加することで有意に促進された。このことから,TIMPIが修復象牙質の石灰化に関与している可能性が示唆された。また,免疫組織化学法により,β-cateninの核内移行が窩洞直下歯髄において観察され,窩洞形成の刺激によってWnt/β-catenin経路が活性化されることが示された。さらに,Timp1のプロモーター解析をおこなった結果,β-cateninとTCF4の結合領域を欠失させるとOD-21において転写が有意に抑制されることが確認された。すなわち,未分化な細胞はWnt/β-catenin経路の影響を大きく受けることが明らかとなった。以上の研究結果から,窩洞形成に伴う侵襲は,窩洞直下の象牙芽細胞のみならず,それよりも内側の歯髄に存在する未分化間葉系細胞にも影響を与え,Wnt/β-catenin経路を介してTimp1の発現を誘導することを明らかにした。これらの研究成果により,修復象牙質の形成メカニズムの一端が明らかとなり,研究目標に対して十分な研究成果が得られたと考えている。
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