研究概要 |
日々の歯科診療における歯痛に対して歯科医師は投薬を行うことで対処しているが,難治性の神経因性疼痛に関係するような症例もある.これらの痛みは麻薬性鎮痛薬ですら無効な慢性疼痛であり患者のQOLを著しく低下させる.作用機序の異なった副作用の少ない新しい治療薬の開発が待たれている.脊髄グリシン抑制系に注目し,この神経活性を高めることにより種々の疼痛モデル動物でグリシン神経機能強化が鎮痛効果を発揮することを示してきた.そこで,本研究ではまず,顎顔面痛におけるグリシントランスポーター(GlyT)阻害薬の作用について検討し,以下の成果を得た. ・オトガイ神経損傷モデル,眼窩下神経損傷モデルでGlyTs阻害薬は強力で長期間持続する鎮痛作用を示し,副作用についても認められなかった. ・GlyTs阻害薬やGlyTノックダウンといったグリシン神経の刺激によっては損傷初期のアロディニア作用には影響せず,むしろ増強がみられ,4日以降において抗アロディニア作用がみられた.対照的にグリシン神経の抑制は損傷初期のアロディニア反応を抑制した. ・グリシン神経の亢進および抑制は術後3~4日目に作用逆転のクリティカルポイントが存在することを明らかとした,同様のクリティカルポイントはGABA神経系においても認められた. ・これら作用逆転は,細胞内Cl-濃度が関係しており,神経損傷により活性化ミクログリアから遊離した脳由来神経栄養因子(BDNF)がTrkBに作用しKCC2の発現を抑制することを示した. 以上より顎顔面領域においても脊髄が中継する痛みと同様にGlyTs阻害薬が有効であることを明らかにできた.歯髄電気刺激による疼痛に対するGlyTs阻害薬の作用については,現在モデル作成中であり来年度以降検討する.
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