研究概要 |
申請者らは平成21年度の研究において,顎顔面領域の神経障害性疼痛においても,脊髄が中継する痛みと同様にグリシン神経機能の変調が疼痛の発症に重要な役割を果たしており,この様な疼痛にグリシントランスポーター(GlyT)阻害薬が有効であることを明らかにしてきた.歯髄の可及的保存治療には炎症歯髄の炎症消退が不可欠である.申請者らは炎症のメディエーターとして知られている血小板活性化因子(PAF)が,脊髄でグリシン抑制性神経機能に影響して疼痛のメディエーターとして重要な役割を果たすことを明らかにしてきている.本年度の研究において,申請者らはPAF受容体阻害薬の歯髄痛をはじめ各種疼痛に対する鎮痛効果について検討した. 三叉神経痛モデル(三叉神経部分結紮モデル)および各種神経因性疼痛モデル(坐骨神経部分結紮モデル,有痛性糖尿病性ニュロパチーモデル),炎症性疼痛モデル(ホルマリンテスト,酢酸ライジングテスト),アジュバント(CFA)誘発慢性炎症性疼痛モデル(関節リウマチモデル)等広範な疼痛モデルにおいて,PAF受容体阻害薬や脊髄および三叉神経脊髄路核でのPAF受容体ノックダウンが長時間持続性で強力な鎮痛作用を示すことを明らかにした. これらの成果はPAF受容体阻害薬が各種疼痛疾患における有効な治療薬となる可能性を示すものである.PAF受容体阻害薬は強力な抗炎症作用に鎮痛作用を併せ持つことが明らかとなり,歯髄炎や歯周組織の炎症に起因した疼痛の治療に有望な治療薬となる可能性が示された.PAF受容体阻害薬は既存の鎮痛薬とは全く異なったメカニズムで作用しており,新規治療薬開発の基礎的基盤を与えるものと期待される. 本年度計画していた歯髄痛に対するこれら薬物の効果については,現在,歯髄刺激,実験的歯髄炎モデル動物を用いた疼痛評価方法について検討中であり,来年度の課題とする.
|