研究概要 |
再生医療に用いられる移植用細胞として,骨髄や脂肪由来の間葉系幹細胞についての研究が数多く進められているが,歯科では歯髄細胞の移植法が注目されている。しかし,歯髄細胞と間葉系幹細胞との関係は明確ではない。また,歯髄細胞の遺伝子発現の特徴や,特異的マーカーは未だ不明である。一方,細胞移植治療において,細胞培養系での血清の使用は移植用幹細胞の性質を変化させる可能性があり,その上血清からの病原体の感染リスクがある。そこで,本研究ではDNAマイクロアレイを用いて,歯髄細胞と骨髄,脂肪,滑膜由来の間葉系幹細胞および線維芽細胞を比較することにより,歯髄細胞のマーカー遺伝子を追求した。更に,歯髄細胞の無血清培養を試みた。 歯髄細胞に対して各間葉系幹細胞および線維芽細胞の遺伝子発現プロファイルは高い相関係数(0.91~0.94)を示した。クラスター解析では,骨髄,脂肪,滑膜由来間葉系幹細胞は相互に近接したが,歯髄細胞はこれらの間葉系幹細胞や線維芽細胞から遠い関係に位置付けられた。歯髄細胞に特異的に発現する遺伝子として,MSX1,MSX2,TBX2,SFRP1,TGFB2,PDE5AおよびENTPD1を見出した。そのうち,STK2の培養系でも歯髄細胞で高レベルに発現していた遺伝子はMSX1,PDE5AおよびENTPD1であった。STK2は10%FBS含有DMEMと比較して歯髄細胞の遺伝子発現プロファイルを大きく変化させることなく増殖を促進した。STK2で前培養した歯髄細胞は10%FBS含有DMEMで前培養したものと比較して,石灰化誘導後に高レベルのALP活性と石灰化能を示した。 本研究の結果から,歯髄細胞に特異的に高発現するマーカー遺伝子を見出した。これらのマーカー遺伝子は,歯牙発生,歯髄組織の恒常性の維持機構や歯髄細胞の分化メカニズム等の解析に役立つと考えられる。さらに,移植用細胞の品質管理にも有用であると期待される。また,従来の血清含有培地と比較して,STK2は歯髄細胞の安全で効率的な培養に役立つことが示唆された。
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