被着面である象牙質表面において走査型電子顕微鏡観察からは、ADゲル法によって石灰質内部のコラーゲンまでもが溶解除去された結果、多孔質になっていることがわかっている。その穴にレジンが浸透、硬化すれば、象牙質の石灰質とレジンの直接的な結合の結果、接着力が発現することが予想される。したがって、接着界面の有機質コラーゲンが加水分解されることによる接着の劣化(Nano-leakage)は生じにくく、エナメル質接着に近い、強固で耐久性のある接着が可能となるであろう。そして、それはADゲル法の後に、還元作用のあるビタミンと鉄イオンを共に溶解して成る象牙質用新規プライマーを用いることによって実現できる可能性が極めて高い。これは、脱灰された象牙質表層にレジンが浸透、硬化して樹脂含浸層が形成されるのと好対照である。この層は、象牙質表層のコラーゲン線維網を高分子材料で置換した生体傾斜材料とも言えるであろう。接着耐久性が改善されるうえ、接着界面が脱灰されにくく2次カリエスの抑制効果も期待できる。現在、アスコルビン酸水溶液にかわる保存性の高いプライマーとして、トコフェロールを含むビタミンを溶解させたプライマーを試作し、次亜塩素酸ナトリウムへの還元作用、および、レジンモノマーのラジカル重合への効果的な関与を明らかにしている。そして、有機質コラーゲンを除去した象牙質表面に対して、レジンを耐久性良く接着できる方法を開発し、その接着メカニズムを解明する予定である。
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