研究概要 |
歯根嚢胞および角化嚢胞性歯原性腫瘍(歯原性角化嚢胞)は,臨床の場において比較的高頻度で遭遇する顎骨内の病変である。しかしながら,感染に誘発されると考えられている歯根嚢胞と,発症のきっかけが全くわからない角化嚢胞性歯原性腫瘍の両者ともにその増大機構は未だ明らかにされていないため,外科的に摘出する治療法が一般的である。癌治療の分野では,グリベック,イレッサ,ハーセプチンなどの成長因子受容体をターゲットとする分子標的治療薬が開発され,臨床に応用されるようになってきたが,口腔領域の疾患における分子標的治療薬の応用は未だ試みられていない。 嚢胞壁を構成する主要な細胞は線維芽細胞であり,裏装上皮との相互作用により嚢胞が増大していくと考えられる。この線維芽細胞の細胞死を誘導できる受容体チロシンキナーゼ阻害剤がみつかれば,顎嚢胞の分子標的治療が可能になると考えた。そこで各種チロシンキナーゼ阻害剤を用いて,嚢胞壁由来線維芽細胞の細胞死が誘導されるかどうかをスクリーニングした。その結果,線維芽細胞増殖因子(FGF),血管内皮細胞増殖因子(VEGF),上皮成長因子(EGF),および血小板由来成長因子(PDGF)受容体に対する阻害剤の組み合わせによって,顕著な細胞死が誘導されることが確認された(特許出願)。 しかしながら,この阻害剤の効果は非特異的であるため,健常な歯周組織に由来する線維芽細胞の細胞死も誘導する。そこで,嚢胞由来線維芽細胞に対して特異的に細胞死を誘導するチロシンキナーゼ阻害剤をスクリーニング中である。
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