研究概要 |
歯根嚢胞および角化嚢胞性歯原性腫瘍(歯原性角化嚢胞)は,臨床の場において比較的高頻度で遭遇する顎骨内の病変である。しかしながら,感染に誘発されると考えられている歯根嚢胞と,発症のきっかけが全くわからない角化嚢胞性歯原性腫瘍の両者ともにその増大機構は未だ明らかにされていないため,外科的に摘出する治療法が一般的である。癌治療の分野では,グリベック,イレッサ,ハーセプチンなどの成長因子受容体をターゲットとする分子標的治療薬が開発され,臨床に応用されるようになってきたが,口腔領域の疾患における分子標的治療薬の応用は未だ試みられていない。 嚢胞壁を構成する主要な細胞は線維芽細胞であり,裏装上皮との相互作用により嚢胞が増大していくと考えられる。この線維芽細胞の細胞死を誘導できる受容体チロシンキナーゼ阻害剤がみつかれば,顎嚢胞の分子標的治療が可能になると考えた。そこで各種受容体チロシンキナーゼ阻害剤を用いて,嚢胞壁由来線維芽細胞の細胞死が誘導されるかどうかをスクリーニングした。各種単独の受容体チロシンキナーゼ阻害剤では,PD166866,次いでGlivecに細胞死を誘導する効果があった。さらにデュアル/トリプルキナーゼ阻害剤の効果を調べたところ,PD173074よりもPDO89828で細胞死の誘導効果が高く,いずれも単独阻害剤の効果を上回っていた。また歯肉上皮細胞に対しては,PDO89828の細胞死誘導効果が高かった。 以上のことから,受容体チロシンキナーゼ阻害剤を組み合わせて嚢胞内に直接局所投与し,嚢胞壁の線維芽細胞や裏装上皮の細胞死を誘導することで,嚢胞の消滅やその増大予防が可能になり,非外科的な顎嚢胞の分子標的治療法が開発できると考えている。
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