研究概要 |
エナメル質表層下病巣を形成する表層はイオンの通過のみ可能な層であると考えられているが,微視的にはサブミクロンレベルの孔や裂溝が存在し,病巣体部には蛋白質等の有機物が侵入している.しかしながら,従来の再石灰化療法は病巣内の有機質除去には注意を払わず,ブラッシングの励行とフッ化物の使用および唾液中の無機イオンに依存して行われてきた.本研究において効率的かつ審美的な再石灰化誘導の手段としてオフィスブリーチング剤を利用することが有効であると確認できれば,初期齲蝕マネージメントの一手法として臨床的に広く活用されると考えられる。 平成23年度において,安静時唾液から抽出した唾液タンパク質に対し,オフィスブリーチング材であるHiLiteを模した条件下で30%過酸化水素水を作用させると,特定のタンパク質が断片化される一方,新たな集合体も形成されることが示された.なかでも,statherinの変性は石灰化抑制力の喪失を意味していると考えられ,オフィスブリーチング材を用いたエナメル質表層下脱灰病巣の再石灰化治療の可能性が示唆された(45^<th> Meeting of CED-IADRその他で発表,臼歯保存誌55(2)127-133,2012に掲載).さらに,ウシエナメル質に表層下脱灰病巣を作製し,安静時唾液に浸漬することで唾液タンパク質を侵入させ,HiLite処理の有無による病巣侵入唾液タンパク質の変化を検討したところ,HiLite群ではタンパク質成分が大幅に消失・減少していることが確認された,また,statherin抗体を用いたWestern blottingの結果から,HiLite処理を行うことにより,表層下脱灰病巣内に存在するstatherinは抗原性を失うことが確認された(日本歯科保存学会2011年度秋季学術大会および神奈川歯科大学学会第46回総会にて発表).以上のことからフッ化物の効果的な利用法にブリーチング材を併用することにより、効果的な再石灰化を導く可能性が示唆された.
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