平成21年度に、ラットに歯髄刺激を繰り返し与えることにより血中のカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)およびコルチコステロンの遊離抑制を生じることを見出した。このことから、歯髄刺激は海馬活動を促すが、同時にストレスホルモンの遊離抑制を生じ、ストレス鎮痛を招来しているのではないかと考えた。そこで、本年度は、ストレス鎮痛に焦点をあて、ストレス鎮痛が脳内オピオイドの遊離によるものであることから、脳内オピオイドの遊離を抑制する目的のもとに、オピオイドの拮抗薬であるナロキソン投与下で、海馬活動が生じるパラメーターの歯髄刺激を繰り返し行い、血中のカテコールアミン、コルチコステロン濃度および血糖値の測定を行った。その結果、オピオイド抑制下であってもアドレナリンおよびドーパミンでは、オピオイド抑制と非抑制に差は認めなかったが、ノルアドレナリンはオピオイド抑制により、非抑制より強い遊離抑制を生じていることが分かった。また、コルチコステロンの遊離および血糖値についてもオピオイド抑制による変化は認めず、歯髄刺激によるストレスホルモンの遊離抑制にオピオイドの関与は希薄である可能性が示唆された。しかし、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンが三者三様の結果を示し、全身的なストレス時においてストレスホルモンの遊離に理論上の整合性を欠いた結果がでることを報告した論文もあることから、歯髄刺激は末梢のわずかな痛み刺激であるにもかかわらず、全身的なストレスとして生体が認知している可能性も示唆された。さらに、その調節を行っている中枢機能に海馬が関与していることも示唆された。また、ドーパミンは、実験全般を通じ遊離状態が不安定で、従来の文献的にもストレス時のドーパミン遊離については諸説があり、今後更に詳細なる検討が必要であると考えられた。
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