健常有歯顎若年者を対象とした電気生理学的研究において、経皮電気刺激による下肢外乱負荷時の姿勢安定性を下顎安静時と噛みしめ時の2条件で比較したところ、噛みしめ時に姿勢がより安定していることが判明した。噛みしめ(咬合)は主に前歯より臼歯部(奥歯)の咬合支持域によって負担されるものであるため、臼歯部の咬合支持域の保持が姿勢立ち直り反射の維持に寄与貢献し、ひいては高齢者の転倒予防に資する可能性があることが推察されるが、この仮説を直接的に支持する客観的なエビデンスは見当たらない。そこで本研究では、下肢の局所姿勢外乱時の立ち直り動作反応を電気生理学的に研究し、臼歯部の咬合支持域の有無が姿勢調節機能に影響を及ぼしうることを客観的に検証することを目的とした。 被験者を床反力計上に直立させ、総腓骨神経に経皮電気刺激(強度50V前後、duration 1msec)を与えて長腓骨筋および前脛骨筋を不随意収縮させることによって下肢の局所姿勢を外乱し、姿勢外乱からの立ち直り反応動作を床反力計および重心動揺解析システムにて計測した。スプリント装着により咬合状態を変化させた。その結果、咬合支持域を変化させたスプリントの装着により、電気刺激による下肢外乱負荷時に重心動揺が大きくなる傾向が認められた。本研究により、歯・咬合の生涯維持の重要性を啓発普及するための基盤的エビデンスを提示することができた。さらに、歯および咬合(噛みあわせ)を一生大切にすることが思わぬ転倒事故による怪我や寝たきりを予防する可能性があるということが示唆された。
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