研究概要 |
本研究では記憶学習に関する行動科学的試験を行い,海馬に発現する記憶に関連する遺伝子をDNA microarray法を用いて解析し,歯牙欠損状態ならびに抜歯後義歯によって咀嚼を回復させた状態で学習を行わせて,これらの記憶関連遺伝子の発現量を分子生物学的に観察することを目的とした。 平成22年度までにDNA microarray法によって学習時に海馬において発現する記憶関連遺伝子として,TrhならびにTnxaの遺伝子発現が増加し,NnatならびにS100a9が減少することが明らかになった。そこで,平成22~23年度にかけて,6週齢のWistar系雄性ラットの上顎臼歯を抜歯した抜歯群と,抜歯後に義歯床によって咬合支持を回復させた義歯装着群,対照群のラットを飼育した。50週齢時から1日1回八方向放射状迷路課題を行わせて0,1,3,7日後に海馬からmRNAを抽出し,上記の4遺伝子の発現をreal-time PCR法を用いて比較した。 その結果,Trhの発現は正常群では経時的に減少し,抜歯群では経時的に増加した。したがって,Trhは記憶学習についての関連は低いことが示された。一方,Tnxaの遺伝子発現はでは正常群と義歯群では経時的に増加し,抜歯群では減少傾向を示した。Nnatは対照群では経時的に減少し,義歯装着群ならびに抜歯群では変化が見られなかった。S100a9では対照群では減少したが,義歯装着群ならびに抜歯群での遺伝子発現が対照群に比べて少なく,マイクロアレイの結果とは矛盾した。したがって,本研究の結果からTnxaならびにNnatの遺伝子発現は行動学的検討結果と整合性を示し,学習に影響する遺伝子の可能性が示唆された。
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