研究概要 |
わが国において栄養学的観点を加味した歯学臨床研究は,齲蝕や歯周病の疫学調査や予防に関する研究など社会歯科学や公衆衛生学分野のものがほとんどで,歯科治療効果を栄養学的見地から評価するという臨床研究は今までに全くみられない.海外,とくに介護や福祉に関する先進国でも疫学的,予防学的な社会歯科学的研究が多く,近年,米国,英国,スウェーデンなどでは疾病や治療効果の栄養学的評価が試みられている. わが国の歯学研究においては,治療効果の判定に栄養学的評価を用いるのは独創的で,初めての試みである.高齢者は低たんぱく質などのリスクが高く,医学研究では栄養素としてたんぱく質に注目することが多い.しかし,今年度参加した学会(IADR, Barcelona)のnutrition research groupのworkshopの意見を参考に,本研究では野菜や果物の摂取状況,栄養素では食物繊維に着目した.補綴歯科学の分野では口腔機能のひとつとして咀嚼機能の客観的評価が重視されているが,栄養学的にこの咀嚼機能と最も深く関わるのは食物繊維と考えられるからである. 今年度、本研究は平成23年1月に九州大学倫理委員会の承認(番号22032)を受け、患者の栄養評価を開始した。対象はまず、顎義歯装着患者(目標20名)である。評価方法は、前述のworkshopでも信頼性が高いとされている3日間食事記録法に、デジタルカメラ撮影による食事の画像を加えて、管理栄養士が総エネルギー量と各栄養素の摂取量を判定する。現在解析途中であるが、安定状態にある顎義歯装着患者は推定エネルギー必要量と各栄養素の推定平均必要量に対する充足率が比較高く、さらに栄養指導を介入させると摂取栄養の質的な改善がみられる傾向にある。
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