研究概要 |
本研究の目的は,部分床義歯のクラスプデザインが義歯床の動揺や支台歯の負担圧にどのような影響を与えるのかを解析し,両者の義歯設計理論の違いを明らかにすることである。 右下第2小臼歯から第3大臼歯の欠損を想定した顎模型を製作し,支台歯となる右下第1小臼歯に,レスト位置や維持腕および拮抗腕の形態が異なる6種類のクラスプを製作した。それぞれのクラスプは脚部で義歯床内のメタルベースとネジ固定で,置換可能にした。 支台歯歯根周囲に人工歯根膜(GCエグザバイトII)を注入して,第1大臼歯人工歯に加重を負荷した時の支台歯に加わる圧力(圧力センサZ18399,日本キスラー)と支台歯および義歯床の変位(モーションキャプチャシステム)を解析した。義歯床の変位量は,支台歯との接触面積が小さく把持作用の低いクラスプを用いた場合に大きく,把持作用の高いクラスプを設置した場合に小さかった。支台歯の変位量は,把持作用の低いクラスプを用いた場合には主に近遠心方向で,把持作用の高いクラスプを設置した場合には垂直方向に大きかった。 支台歯に加わる圧力は,垂直方向では把持作用の高いクラスプを用いた場合に大きかったが,水平方向の加重は把持作用の低いクラスプを用いた場合に大きかった。 以上の結果は,把持作用の高いクラスプを用いることで義歯の動揺が抑制され,固定源となる支台歯に加わる荷重は大きくなるが,荷重の加わる方向は支台歯への負担が少ない歯軸方向へ誘導されることを示唆したものと考えられる。一方,把持作用の低いクラスプでは支台歯に加わる荷重が全体として軽減されるものの大部分が水平方向に加わりやすいことを示唆している。 今後,定荷重付加の条件やサンプル数の増加によりさらに検討する予定である。
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