研究概要 |
インプラント周囲炎と炎症性サイトカイン関連遺伝子多型についての調査は皆無であり,遺伝子多型解析によるインプラント周囲炎のリスク診断調査を行うことは非常に意義があると考えた.しかし,遺伝子診断の研究では,通常遺伝子サンプルを静脈血の採取によって得ているが歯科領域において静脈血の採取は一般的とはいえない,そこで本研究では,口腔内より粘膜上皮細胞を採取,Phi 29 DNA polymeraseを用いてDNAを増幅することによって,血液サンプルの採取を行わずとも遺伝子診断を行える手技を確立し遺伝子多型とインプラント周囲炎との関連を明らかにし,最終的には遺伝子多型解析によるインプラント周囲炎のリスク診断システムの開発を目的とした. 1. 昨年度確立したプロトコルに従い,多施設での大規模調査の実施と基礎データの収集を行った.男性25名(平均年齢73.8歳),女性30名(平均年齢73.7歳)の披験者で口腔内診査を行ったところ未処置歯数0.69本,欠損歯数16,6本,処置歯数5.8本,CPITN値2.3であった. 2. すべての披験者の頬粘膜細胞を採取し,Phi29DNAポリメラーゼでDNAを増幅後,IL-1Aの遺伝子多型を検討したところ,55名中5名(9.1%)においてallele2つまり遺伝子多型を保有している披験者が認められた. 3. IL-1Aの遺伝子多型を保有している5名中2名が無歯顎であり,1名は21本の歯牙欠損を認めた.その他2名は3本のみの歯牙欠損であったものの,CPITNはコード2と4を示した. 以上より,口腔内より,非侵襲的に粘膜上皮細胞を採取し,少量のDNAから遺伝子多型を診断することが可能であることが示唆された.また,欠損歯数とIL-1Aの遺伝子多型との間には関連は認められないことが示唆された.
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