味覚障害の原因は多様であるが、約70%に亜鉛内服療法が有効であるといわれている。研究代表者は、耳下腺唾液中37kDa亜鉛結合タンパク質(Gustin)である炭酸脱水酵素VI型(CAVI)が味覚機能に関与するとの報告に基づき、ELSA法にてCAVIに対する抗体によりCA VI(Gustin)濃度を検出する方法を確立した。現在まで、正常者と味覚障害患者とのGustin濃度の比較、血清亜鉛値とGustin濃度との比較検討を行ってきた。本年度は、亜鉛内服治療の有効性を簡便かつ明確にすることを目的として、味覚障害患者の主観的評価と客観的評価(Gustin濃度)を比較検討した。対象は、味覚障害を主訴として冨田耳鼻咽喉科を訪れた患者11名とした(平均年齢54.4±12.7歳)。耳下腺唾液採取には、久保木式採唾器YK-Iを用いて、耳下腺開口部より酸味刺激下にて吸引採取した。また、昧覚閾値測定を四基本味の濾紙ディスク法にて施行し、あわせて血清亜鉛値、血清銅値等を測定した。採取した耳下腺唾液は、確立したABC methodを用いたELISA法にて発色させ、マイクロプレートリーダを使用し、405nmにて吸光度を測定した。その結果、対象症例の味覚障害の主訴は味覚低下が7名、自発性異常味覚が4名であった。亜鉛内服治療の期間は2か月から4か月であり、11名中10名が治癒した。治療方法として亜鉛剤の投与、食事療法を行ったところ、血清亜鉛値は初診時で80.4±235μg/dl、治療後は91.91±14.3μg/dlと上昇した。また、濾紙ディスクの結果も4.1±1.1から2.6±1.0と正常化し、Gustin濃度は、379.9ng/mlから658.5ng/mlに増加した。次年度は、診療室で迅速に検査できるPOCT(Point-of-Care Testing)を目指してイムノクロマト法を開発する予定である。
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