我々は、純チタン(Ti)表面へ陽極酸化と水熱処理を行うことで陽極酸化皮膜表面上にハイドロキシアパタイト(HA)を析出させる表面処理(SA処理)法について検討してきた。その結果、SA処理インプラント体表面では初期の骨形成能が高く、口腔インプラント治療への有用性が示唆されてきた。口腔インプラント治療に必要な条件としては、顎骨内におけるインプラント体との硬組織結合性、歯肉部におけるインプラント頚部周囲との軟組織結合性(ソフトティッシュインテグレーション)が重要となってくる。我々は結合組織付着と上皮付着の獲得にはインプラント頚部の表面性状・形状の関与が重要であると考えている。これにより生体防御機構や辺縁骨頂レベルの維持が図られ歯槽骨頂の喪失を予防することが可能となり、SA処理Tiインプラント埋入後における長期安定性が得られるものと考えている。そこで、平成21年度に解析したSA処理表面性状と線維芽細胞形態の解析結果を踏まえて、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)による細胞接着に関与する細胞内タンパクキナーゼのfocal adhesion kinase(FAK)の局在ついて解析した。解析時には、細胞骨格であるアクチンフィラメントについても確認した。CLSM観察では、アクチンフィラメントはSA処理チタン上ではAO処理チタン上に比較して細胞は伸展状態を呈しており、細胞の伸展に沿ってアクチンフィラメントは伸展し、さらにHA結晶部分ではアクチンフィラメントが集積している像が観察された。培養10時間後ではFAKはAO処理チタン、SA処理チタン共に細胞質に局在していた。一方、培養72時間後ではSA処理チタンではAO処理チタンに比較して細胞突起で強く局在しているのが観察された。平成22度の研究成果より、SA処理チタン表面の陽極酸化被膜は、ナノ構造を有する構造体であることから、細胞接着に関与するタンパク質の吸着に有利であることが考えられた。さらには、SA処理チタンの表面性状は、線維芽細胞の接着と形態に影響を与えていることが示唆された。
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