研究概要 |
舌の口蓋への接触圧の変化を観察することで,高齢有歯顎者における咀嚼時の舌の運動機能変化を明らかにし,老化がいかなるメカニズムで咀嚼運動に影響を与えるかを解明することを目的とした。 咀嚼嚥下機能に異常を認めない62歳以上の有歯顎者15名を被験者とし,グミゼリーの咀嚼開始から嚥下終了までの口蓋床への舌接触状態について解析した。さらに,最大随意舌接触圧および最大随意咬みしめ(100%MVC)時の咬合力についても検討を加えた。統計学的解析は,分散分析を行った後にTukey testによる多重比較を行い危険率5%以下を有意と判定した。最大随意舌接触圧と100%MVC時の咬合力に関しては,両者の相関関係を求め危険率5%以下を有意と判定した。 1.最大舌接触圧は口蓋正中中央,後方部に比べ切歯乳頭部,節歯列弓口蓋側周縁で有意に大きく,センサ間では切歯乳頭部,口蓋正中中央部,後方部において咀嚼前期より後期で有意に大きかった。 2.舌接触時間は口蓋正中中央,後方部に対し切歯乳頭部,歯列弓口蓋側周縁で有意に大きく,センサ間では口蓋正中部において咀嚼前期より後期で有意に大きかった。 3.舌接触圧積分値は口蓋正中中央,後方部に対し切歯乳頭部,歯列弓口蓋側周縁で有意に大きく,センサ間では口蓋正中部において咀嚼前期より後期で有意に大きかった。 4.最大随意舌接触圧および100%MVC間には正の相関が認められた。 高齢有歯顎者の咀嚼後期では口蓋正中部への舌接触が強く第II期輸送が高頻度に出現し,加齢による舌の形態変化および機能低下が生じたために起こった現象と考えられた。さらに,最大随意舌接触圧と100%MVCに正の相関関係を認めたことから舌圧の減少と共に咬合力が弱まり,結果的に咀嚼機能が低下する可能性が推察された。
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