研究概要 |
舌の口蓋への接触圧の変化を観察することで,高齢総義歯装着者における咀嚼時の舌の運動機能変化を明らかにし,また若年有歯顎者及び高齢有歯顎者の実績と比較検討することで,舌の運動機能の変化が咀嚼運動に与える影響を解明することを目的とした。 咀嚼嚥下機能に異常を認めない高齢総義歯装着者15名を被験者とし,グミゼリーの咀嚼開始から嚥下前までの口蓋床への舌接触状態について解析した。さらに,最大随意舌接触圧および最大随意咬みしめ(100%MVC)時の咬合力についても検討を加えた。統計学的解析は,分散分析を行った後にTukey testによる多重比較を行い危険率5%以下を有意と判定した。最大随意舌接触圧と100%MVC時の咬合力に関しては,両者の相関関係を分析し危険率5%以下を有意と判定した。 1.最大舌接触圧,舌接触時間及び舌接触圧積分値は口蓋正中中央,後方部に比べ切歯乳頭部,歯列弓口蓋側周縁で有意に大きく,咀嚼期間では咀嚼前期及び中期より後期で有意に大きかった。 2.咀嚼開始から嚥下までに要する時間とその過程における舌接触圧発現時間との比率は,口蓋正中中央,後方部に比べ切歯乳頭部,歯列弓口蓋側周縁で有意に大きかった。 3.最大随意舌接触圧と100%MVC時の咬合力との間には有意な正の相関が認められた。 高齢総義歯装着者の口蓋部への咀嚼時舌接触は,若年有歯顎者及び高齢有歯顎者と同様に切歯乳頭部(S字状隆起)及び歯列弓口蓋側周縁で有意に大きく,この部位の形態が咀嚼の円滑な遂行に重要であることが示唆された。しかし,高齢総義歯装着者では咀嚼の進行に伴って第II期輸送が高頻度に生じており,機能力の低下に起因すると考えられる前方から後方への舌の回線運動が舌全体で行われており,最大随意舌接触圧も低下していることから,これらの咀嚼時舌運動機能の変化を補償し適切な咀嚼機能を遂行可能とするためには,義歯床口蓋部全体に厚さを持たせる必要があると考えられた。
|