本研究の目的は、FGFR2b/FGF10シグナルの口腔粘膜の治癒・再生への関与・役割を解明することにある。本研究結果は、歯の喪失により失われた歯槽堤再生のための基盤となり、FGFを用いた口腔粘膜再生の治療法開発/臨床応用に多大な貢献をもたらすと考える。 本研究には、海外研究協力者であるロサンジェルス子供病院ベルーシ准教授より供与を受けたFGF1O過剰発現マウスを用いた。これらのマウスは、テトラサイクリン系抗生物質ドキソサイクリン混合飼料の投与により、投与開始48時間後よりFGF10過剰発現させること可能となる。これを用いて、FGF10過剰発現時おいて、粘膜創傷治癒モデルによる粘膜治癒過程について組織学的検討を行った。 実験には同腹仔の野生群(CTRL)とFGF10過剰発現群(OE)を実験に用いた。方法は、実験開始48時間前に、ドキシサイクリン飼料の投与を行った。次に、マウスの舌背左右両側部に直径1mmの粘膜欠損をAcu-Punch^[〇!R]を用いて実験的粘膜創傷を形成した。粘膜創傷治癒過程におけるFGF10過剰発現の有無の影響を経時的に観察するために、粘膜欠損形成、1、3、7日後に組織採取した。 この結果、CTRL群では実験的粘膜創傷形成1日後では、CTRLおよびOEにおいて粘膜創傷には違いは認められなかった。実験的粘膜創傷形成3日後では、CTRLに比べて、OEの創傷部位では、重層扁平上皮の基底細胞の増殖が著しく認められた。これは創傷部位とは別の正常部位では観察されなかった。実験的粘膜創傷形成7日後では、CTRLに比べて、OEの創傷部位では、重層扁平上皮の基底細胞の増殖は、3日後の結果に比べも一段と著しかった。また3日後の結果とは異なり、創傷部位とは別の正常部位においても、重層扁平上皮の基底細胞層が増殖・肥厚していることが明らかとなった。これは、FGF10の過剰発現は、重層扁平上皮の基底層の増殖により働くことが明らかとなった。また他の上皮(膀胱の移行上皮)の研究からも、FGFR2b/FGF10シグナルが粘膜の基底細胞層に大きく作用する結果を得ている。粘膜の基底細胞層には、上皮由来幹細胞の存在することがこれまでに明らかとなっており、基底細胞は、棘細胞、角化へと分化していくことが知られている。また口腔上皮由来幹細胞の分化には、上皮と間葉の間におけるFGFR2b/FGF10シグナルが重要であることが、研究分担者の他の報告で明らかとなっていることからも、FGF10は、口腔粘膜基底層に存在すると考えられる、口腔上皮由来幹細胞の分化を促進し、粘膜創傷の治癒を促進するものと考えられた。 今後は、粘膜再生を促進させるための、FGFR2b/FGF10シグナルに関連する成長因子やタンパクを探索し、臨床応用できるよう研究を遂行する予定である。
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