平成23年度は 1.オートインデューサー類似の蛍光性化合物の合成 2.アパタイト表面のヒアルロン酸吸着層の粘弾性 3.ゲル様ヒアルロン酸中のDHLの拡散 を実施する計画であったが、蛍光化合物合成が計画どおり進行しなかった。そこで代替計画に従って色素型抗菌物質(アクリフラビン)のヒアルロン酸濃厚溶液(準ゲル)中の拡散分析を、紫外可視分光法により実施した(前年度の展開)。当計画の実験系では、色素拡散進行中のセルにおいて固定位置での色素濃度の経時的変化を計測し、実測量であるこの変化量dC/dtを拡散能と名づけた。一方、拡散方程式dC/dt=D(d^2C/dx^2)において、位置を固定して観測した場合は右辺の二次微分の項を定数とみなすと、同方程式はdC/dt=kD(kは定数)と簡略化される。これを実験系と対比すると、実験的に得られた拡散能は拡散係数と同等のものであることが示された。また、拡散物質であるアクリフラビンを半径aの球に近似すると、Stokes-Einsteinの式D=kt/6πηaから媒質の粘性が低いほどアクリフラビンの拡散が促進されることが示唆され、高温、界面活性剤添加(→ヒアルロン酸の凝集)といった因子により媒質の粘性が低下した場合に拡散能が高くなったという実験結果はこれと合致するものであった。アクリフラビンの代わりに蛍光性の合成オートインデューサーを用いて蛍光強度モニターを計画どおり行うと、格段に微量(低濃度)での拡散の計測が可能である。その場合は濃度変化率が小さくなるため拡散係数も低くなること、粘性の拡散への影響が一層強くなることが予想される。オートインデューサーはホルモン的微量でクオラムセンシングに働くとされており、微量蛍光分析で得られた拡散挙動はクオラムセンシングの実態を反映したものになるという見通しが得られた。
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