研究概要 |
糖尿病性神経障害に対する新しい治療法として,前駆細胞や幹細胞を用いた細胞移植治療の有効性が報告されている.細胞移植治療は,細胞を得る段階での侵襲性、および採取後の細胞機能の維持が重要となる.ヒト歯髄幹細胞(hDPSCs)は,間葉系幹細胞の一種であり,歯科矯正治療での便宜抜歯等により採取可能なため,細胞供給源として期待されている.我々は,hDPSCsが糖尿病性神経障害の治療に有効であることを実験的に確認した. 矯正治療時の同意の得られた抜去歯より清潔に歯髄を摘出し,コラゲナーゼ処理した後,プラスティックディッシュ上に播種し,10%FBS含有α-minimum essential medium(α-MEM)にて培養した.数代経代することにより,純度の高いヒト歯髄幹細胞(human dental pulp stem cells; hDPSCs)を得たhDPSCsは,ラットDPSCs同様,CD31,CD34,CD45陰性,CD29,CD49d,CD90,陽性として同定された.得られたhDPSCsは,既報従い,骨,脂肪に分化誘導できることを確認した.得られた培養hDPSCsをStreptozotocin(STZ)投与8週後のヌードマウスの片側後肢骨格筋に26Gの注射針を用いて移植し、4週間後に糖尿病性神経障害に対するhDPSCs移植の効果を検討した.糖尿病マウスで低下した坐骨神経における運動神経伝導速度/感覚神経伝導速度および坐骨神経内血流は,hDPSCs移植により有意に改善した.さらに感覚機能検査としてNeurometerを用いた電流知覚閾値(CPT)検査を施行したところ,糖尿病群で低下した知覚機能は,hDPSCsの移植により有意な改善した.)免疫組織学的検討では,後肢骨格筋に移植したhDPSCsは,主に筋肉内の筋束間隙に存在し,脂肪細胞,骨芽細胞への分化は認めなかった。以上より,抜去歯より得られた培養ヒトDPSCs移殖は,糖尿病性神経障害の新しい治療法として有効であることが示唆された,今後臨床応用のための臨床治験が期待されるところである.
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