研究概要 |
口腔外科臨床では,時として術後の創傷治癒不全を経験し,その対応に苦慮することがある.仮に患者の創傷治癒能が術前より明らかになるならば,手術法の選択基準の指標や術後の創傷管理の対策,さらには新しい創傷治癒管理法の開発へとつながる可能性がある.本研究では,われわれがこれまで証明してきたkeratinocyte-derived cytokineの創傷治癒における効果,有効性を応用し,全く新しい創傷治癒機構解明へのアプローチを行うことによって,今まで解明されていなかった口腔粘膜上皮におけるsomatic stem cellの局在と細胞代謝能そして上皮分化と再性能力を明らかにし,その特性から最終的には臨床応用可能な「創傷治癒予測マーカー」を開発することを目的として研究を実施した.平成22年度は平成21年度の研究成果を再確認するという進行状態に終わった.すなわち,表皮形成に必要なエネルギー源(パルミチン酸16:0)の貯蔵領域とstem cellの局在領域(毛包細胞のバルジ領域)が一致したことから,毛包細胞が皮膚上皮系のすべてのstemであり,毛包細胞の表皮角化細胞への転換現象が上皮化現象であるという一側面に注目し,皮膚とは角化様式や附属器官の異なる口腔粘膜での上皮ケラチノサイトのエネルギー代謝とstem cellの局在領域を細胞生物学的に検討し,口腔粘膜の皮膚に比較した「易創傷治癒性」を解明することを目的とした.その結果,oral keratinocyteの細胞膜はepidermal keratinocyteに比較して,より多くのパルミチン酸(16:0)で構成されていることが明らかとなった.また,basal layer cellとsuprabasal cellに分けて脂肪酸を解析すると,oral keratinocyteでは,epidermal keratinocyteに比較してパルミチン酸構成比の高い細胞が重層扁平上皮の領域(層)にかかわらず上皮層全体に分布していることが明らかとなった.これらの結果は,皮膚に比較して口腔粘膜が絶対的にエネルギー代謝量が多いということを示唆している.この結果を再度同実験系および免疫組織学的に再確認し,平成21年度,22年度の研究結果が正しいことを証明した.
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