我々はこれまでにヒト歯髄細胞を再生医療に応用することを目指し研究を進めてきた。その研究過程において歯髄細胞の多分化能を検討する目的で、初代培養した歯髄細胞を細胞選択、分化誘導を行わずに、そのままハイドロキシアパタイトスキャフォールドに付着させ免疫不全マウスに移植したところ活発な骨組織形成が観察された。そこで本研究を遂行することに至り、研究初年度の平成21年度は同意の得られた患者10人の歯髄細胞を用いて実験を行った。10人全ての歯髄細胞は細胞選択、分化誘導を行わずともin vivoにてハイドロキシアパタイトスキャフォールド内に骨組織を形成した。免疫組織電顕により歯髄細胞により形成された骨組織にはヒトオステオカルシン、TypeIコラーゲンの発現が認められた。また、歯髄細胞による骨形成は歯の発生段階(根完成歯または根未完成歯)、細胞培養培地の種類、血清濃度には影響されず、いずれの場合にも骨形成が認められた。 これまでの骨再生医療研究では骨髄や脂肪組織などから細胞を表面マーカーなどにより選択し、その後にデキサメタゾンやBMPなどの分化誘導因子を用いて細胞を骨芽細胞に分化させていたが、今年度の我々の研究成果は歯髄細胞は細胞選択、分化誘導を必要とせずにin vivoにおいて骨を形成できることを示している。実際の再生医療の臨床応用を考えると安全性、簡便性は非常に重要な問題である。今年度の研究成果は従来の骨再生医療に比べより簡便で安全性の高い方法に発展すると考えられ、その意義は大きいと思われる。
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