研究概要 |
顎骨嚢胞および顎骨腫瘍が破骨細胞を活性化する因子を産生し,破骨細胞形成,骨吸収の過程を介して顎骨内で増大・進展する機序を仮定し,研究を行った.臨床検体の研究使用の同意の得られた患者の各種顎骨嚢胞(角化嚢胞性歯原性腫瘍,濾胞性歯嚢胞),顎骨腫瘍(エナメル上皮腫)の嚢胞内容液を吸引採取し,その上清をろ過滅菌して保存して試料とした.また,手術による摘出組織からは上皮細胞および間質線維芽細胞を分離した.さらに摘出組織はパラフィン包埋し,免疫染色に用いた.まず,角化嚢胞性歯原性腫瘍,濾胞性歯嚢胞でPTHrP,TGF-beta,IL-lalphaの免疫染色を行った.嚢胞裏装上皮細胞はPTHrP,TGF-beta,IL-lalpha陽性で,特に嚢胞腔側に近い,または角化層に近い上皮細胞にTGF-betaは強陽性を示し,基底細胞層,有棘細胞層にPTHrPは陽性で,IL-lalphaは角化層に最も強く,上皮細胞層全層で陽性を示した.そして,嚢胞裏装上皮下の繊維性結合組織と顎骨との境界にはTRAP染色陽性の破骨細胞形成を認めた.また,骨境界領域周囲の嚢胞結合組織線維芽細胞にはRANKL陽性を示した.これらより,顎骨嚢胞-顎骨境界領域で破骨細胞形成がなされていることが示唆された.嚢胞上皮細胞での発現が免疫組織染色で確認されたサイトカインについて,その内容液に含まれる濃度をELISA法で測定した.その結果,歯原性角化嚢胞には高濃度のTGF-beta(平均6.7mg/ml),IL-lalphaを含んでいることが示された.ついで,嚢胞内容液が破骨細胞形成を促進するか否かを(1)破骨細胞前駆細胞培養実験,(2)破骨細胞前駆細胞と嚢胞由来線維芽細胞との相互作用を検討した.(1)での破骨細胞形成はその前駆細胞としてヒト末梢血単核球を比重遠心分離法で分離し,抗CD-14抗体マグネットマイクロビーズを用いてCD-14陽性細胞を単離し,M-CSF,sRANKL存在下で種々のサイトカインを添加し培養し,破骨細胞形成をTRAP染色で評価した.同様の実験をマウス破骨細胞前駆細胞株RAW264細胞で行った.(2)では,歯原性角化嚢胞あるいはエナメル上皮腫の間質線維芽細胞を分離・培養し,上記の種々のサイトカインを添加し破骨細胞形成の正の制御因子であるRANKL発現と負の制御因子であるOPG発現をRT-PCR法で検討した.その結果,TGF-bおよびIL-laは濃度依存的に破骨細胞形成を促進し,その両者を添加すると相加的に破骨細胞形成が促進された.次いで,嚢胞間質線維芽細胞を介した破骨細胞形成を検討するため,破骨細胞形成を制御するRANKL,OPGの発現を検討した.歯原性角化嚢胞内容液は間質線維芽細胞のRANKL発現を上昇させ,OPG発現を変化させなかった.また,嚢胞内容液を酸処理することでRANKL発現はより一層促進され,線維芽細胞のSmad-3のリン酸化,核内移行をきたしたことから,嚢胞内容液内のTGF-bが間質線維芽細胞のRANKL発現を調節していることが示唆された.以上より歯原性角化嚢胞は嚢胞上皮細胞が産生するサイトカインが直接的に破骨細胞形成を促進し,および間接的に間質線維芽細胞のRANKL発現を促進することで破骨細胞形成を促進することが示唆された.
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