研究概要 |
平成22年度において、慢性ストレスのモデルとして交感神経受容体のアゴニストであるフェニレフリン(α_1アドレナリン受容体刺激薬)を長期投与する系(1日2回5日間腹腔投与)を考案した。マウスにフェニレフリン(PHE群)を投与すると、唾液分泌量は変化しないが、唾液タンパクの分泌量に変化が生じる。また、タンパクのうち、カリクレイン活性の有意な低下がみられる。これは、慢性ストレスで見られる現象と似ている(Yoshino Y,et al,2009)。 二次元電気泳動により2群間で差異のあるタンパクを同定した結果、カリクレイン22(mk22)とレニン2(Ren2)がPHE群で減少していた。そこで、長期のα_1アドレナリン受容体刺激による唾液タンパクとカリクレイン分泌抑制が生じるメカニズムについて検討した。顎下腺におけるmk22とRen2のmRNA量をリアルタイムPCRで調べた結果有意な差は認められなかった。このことから唾液タンパク分泌の減少は、タンパク合成能の低下ではなく、分泌能の低下と推察された。そこで次に、細胞分化・増殖に関わるリン酸化酵素であるExtracellular signal-regulated Kinase(ERK1/2)に着目し、リン酸化特異的認識抗体であるp44/42ERKとPhospoh-p44/42ERKを用いて、顎下腺と耳下腺におけるタンパク分泌の影響を調べた。その結果、耳下腺ではPHE群のリン酸化が増大していたのに対して、顎下腺では低下していた。このことから、細胞内情報伝達の障害が唾液タンパク分泌抑制に影響を及ぼしているものと推察された。
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