研究概要 |
多能性幹細胞で発現しているNanog,Oct-3/4,Sox-2は未分化維持機構に関与している。リアルタイムPCRにより,コピー数のわかっているプラスミドの希釈系列から推定する方法を用いて,これら未分化幹細胞マーカーは,ラット歯髄由来の初代培養細胞で10コピー以上発現していることがわかった。次に,この細胞を用いて,内胚葉組織へのin vitro分化誘導系を構築するための実験を行った。内分泌系細胞への分化制御に関わる転写因子Pdx1(852bp),Ptf1a(981bp),Ngn3(645bp)のcoding regionのN末端に真核生物のKozac配列を挿入したDNAを合成し,クローン化を行った。ラット歯髄由来細胞への遺伝子導入ベクターには,脳心筋炎ウイルスのinternal ribosome entry site配列を含み,クローン化された目的遺伝子とサンゴ由来ZsGreen1の翻訳領域の双方が一分子のmRNAから翻訳され,緑色蛍光を発する細胞の100%が非融合タンパク質として,目的遺伝子を発現できる系を用いた。予備実験でラット歯髄由来細胞へPdx1を導入3日後にPdx1の顕著な発現を認め,導入8日後にその発現は約10%以下に低下することがわかった。Pdx1を3日間隔で導入した。Ptf1aを追加導入し,内分泌前駆細胞系譜への分化誘導を試みた。次に,Ngn3を導入し,インスリン分泌性細胞系譜への分化誘導を試みた。膵島の構成細胞のマーカーであるinsulin, glucagon, somatostatin, pancreatic polypeptideの発現を指標に分化の程度を評価した。細胞固定標本でインスリン抗体による免疫蛍光染色を行い,インスリンの発現を解析した。分化誘導10日後に,insulinの発現が認められる細胞が観察された。一方,glucagonを発現している細胞も一部,観察された。Somatostatinまたはpancreatic polypeptideを発現する細胞は観察されなかった。Insulinおよびglucagonを発現する細胞が内分泌前駆細胞の可能性があり,ラット歯髄由来細胞にin vitro誘導系を適用すると,内分泌細胞系譜方向への分化過程にあることが示唆された。今後,内分泌系細胞への分化制御の機序を調べる。
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