研究概要 |
Cyr61過剰発現細胞とEMT型口腔扁平上皮癌細胞の大きな違いは,癌細胞間接着の有無である.EMT型口腔扁平上皮癌細胞はSnail,およびSnailが誘導する転写因子SIP1, deltaEF1によってE-カドヘリンの発現が抑制され,またClaudinなどtight junctionが解除されて完全に細胞間接着は失われている.しかしCyr61過剰発現細胞は細胞間接着が機能的に保存され,ウンドヒーリングアッセイでin vitroで集団的遊走を示した.これが癌組織においてどういう挙動を示すのかを検討するため,再構築三次元培養法および細胞蛍光染色にてCyr61の浸潤における役割を詳細に検討した。三次元培養法において、90%のOM-1細胞(コラーゲン層にはほとんど浸潤しない)と10%のCyr61過剰発現OM-1を混合すると、先行してコラーゲン層に浸潤するCyr61過剰発現OM-1に続いてOM-1が浸潤する像を示し、この結果はCyr61が癌細胞に浸潤能を付加することが考えられた。 細胞蛍光染色では、ウンドヒーリング法で集団的細胞運動状態にしてCyr61過剰発現OM-1をF-アクチンで染色したところ、癌細胞は極度のストレスファイバーを形成していることが分かった。重要なのはスクラッチに面している細胞運動の前線にいる癌細胞のみならず、癌細胞集団の内部の癌細胞も同時にストレスファイバーを示しており、この結果はCyr61による癌細胞の集団的遊走の誘導が示唆された。 次にCyr61でCyr61過剰発現OM-1を染色すると、癌細胞周囲のディッシュ底面にCyr61がマトリックスのように強固に付着し、細胞はそのマトリックスを利用して細胞運動が亢進している像がみられた。以上の結果から、Cyr61はオートクラインのみならず、パラクラインに癌細胞に作用して細胞運動を亢進させ、さらにマトリセルラープロテインとして癌細胞集団の周囲にマトリックスとして定着し、癌細胞の集団的浸潤に大きく貢献していることが示唆された。
|