近年、癌遺伝子への依存が癌の有用な治療標的となることが示されている。これまでに、.われわれは口腔癌において共通して発現亢進し、その悪性形質を支持する癌遺伝子としてAkt1を同定し、さらにAkt1を特異的に標的とする超効率型合成small interfering RNA (siAkt1)を見出した。本研究では、siAkt1の癌治療への応用を目指して、送達担体となるアテロコラーゲンの全身投与における安全性とsiAkt1の口腔扁平上皮癌に対する感受性について検討した。合成siAkt1をアテワコラーゲン0.1%(低用量)、0.2%(高用量)と混合し、マウス尾静脈内に投与した。投与5日後に剖検し、器官および組織の肉眼的および病理組織学的評価を行った。高用量投与群においては腎臓、肺に不溶化したアテロコラーゲンの塞栓が観察され、一部の動物では死亡が認められたが、低用量投与群では若干の塞栓は確認できるもののそれによる著しい機能的および器質的変化は認められなかった。次に、手術標本より口腔癌原発および転移腫瘍組織を用いて初代培養を試みた。無血清培地下での腫瘍細胞の増殖を確認後、siAkt1をリバーストランスフェクションし、3日後に生細胞数をWST-8にて定量した。対照群とsiAkt1処理群の吸光度を比較することにより、個々の腫瘍細胞のsiAkt1に対する感受性を評価した。口腔扁平上皮癌10症例を用いて検討したところ全症例においてsiAkt1による細胞増殖抑制効果が確認された。以上の結果より、siAkt1とアテロコラーゲン(0.1%以下)の複合体は口腔癌の新規治療薬となる可能性が示唆された。
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