研究概要 |
本研究の目的は,全身麻酔中の低血圧が一定時間持続することにより、延髄に存在する嘔吐中枢に何らかの影響を与え、術後の悪心・嘔吐を引き起こすという仮説を検証することにある.研究実施計画に基づき,実験動物は8~10週齢のSD系雄性ラットを研究対象とした.ラットに空気・酸素・イソフルランで麻酔を行い,入眠後,気管挿管を施行した.その後,同様の麻酔方法で従圧式ベンチレータを用いた調節呼吸下に尾動脈および尾静脈にPE50,PE10のポリエチレンカテーテルを挿入し,観血的動脈圧測定および持続静注(4mg/kg/hの維持輸液)を可能にした.これら処置を1時間以内に完了し,以後の測定を開始した,実験群として(1)低血圧群,(2)通常血圧のコントロール群について検討した.降圧にはニトログリセリンを持続静注したが,個体により降圧の程度が様々で,本来低血圧状態を30分間持続する予定であるが,65~130μg/kg/minの高用量投与でも安定した低血圧が維持できず,ボーラス投与を繰り返すうちに死亡するラットもあった.他方,コントロール群に関しても,麻酔途中で原因不明の低血圧に陥ることがあり,収縮期血圧100mmHg以上の安定した血圧を維持することが困難であった.低血圧刺激終了2時間後まで同様の方法で麻酔維持を行い,その後,開胸し,心臓より4%パラホルムアルデヒドを用いて灌流固定を行い,直ちに脳組織を取り出し,48時間以上の浸漬固定後,免疫染色を行った.延髄最後野を中心にc-Fos発現の比較を試みたが,現時点ではc-Fosの発現を認めず,群間の比較には至っていない.その原因として低血圧の曝露が不十分であることが考えられ,次年度は,安定した低血圧維持のためにニトロプルシッドなど他剤へ薬物を変更し検討する予定である.
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