研究概要 |
本研究の目的は,全身麻酔中の低血圧が持続することにより,延髄に存在する嘔吐中枢に何らかの影響を与え,術後の悪心・嘔吐を引き起こすという仮説を検証することにある.本年度までは,嘔吐と密接な関係があるとされる延髄最後野への低血圧刺激が与える影響についてc-Fos発現数を指標に検討した. 実験動物は8~12週齢のSD系雄性ラットを研究対象とした.ラットに空気・酸素・イソフルランで麻酔を行い,入眠後,気管挿管を行った.その後,調節呼吸下に尾動脈および尾静脈にカテーテルを挿入し,観血的動脈圧測定および持続静注を可能にした.これら処置を45分以内に完了し,以後の測定を開始した.実験群として(1)低血圧群,(2)通常血圧のコントロール群について検討した.当初は麻酔維持中もイソフルランを使用する予定であったが,麻酔中の血圧コントロールが難しいことやc-Fos発現数が通常血圧群でも多いことから,麻酔開始45分以降は麻酔薬をイソフルランからプロポフォール持続投与に変更した.低血圧群では,麻酔開始60分後よりニトロプルシド50μg/kg/min持続静注し,平均血圧60mmHg程度を目標に20分間低血圧麻酔を行った.麻酔開始3時間後に4%パラホルムアルデヒドを用いて灌流固定を行い,脳組織を浸漬固定後,免疫染色を行った.その後,延髄最後野のc-Fos発現数を比較した. その結果,c-Fos数(平均±標準偏差)は,低血圧群(n=8)116±32,コントロール群(n=6)76±28,(p<0.05).となり,低血圧群では,c-Fos発現数が有意に多かった.これは全身麻酔中の低血圧刺激が延髄最後野に何らかの影響を与えていることを示唆している.今後は,延髄最後野への影響が,嘔吐と直接関係するか否かを異食行動を用いて検討していく予定である.
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