1. 術前Ca拮抗薬服用が麻酔作用に及ぼす効果に関する臨床統計学的検討 過去10年間の九州大学病院歯科麻酔管理麻酔症例(全身麻酔4674例、静脈内鎮静法1218例)を対象として、術前Ca拮抗薬服用症例(472例)より、Ca拮抗薬単剤服用症例(204例)を抽出し検討した。 静脈内鎮静法では、手術侵襲程度を考慮したいずれの術式群においても、Ca拮抗薬服用症例とコントロール症例間で、術中の循環動態変化に有意差はなく、プロポフォール、ミダゾラム使用量(mg/kg/h)にも有意差は認められなかった。全身麻酔でも同様に、いずれの術式群においても、術前Ca拮抗薬服用は循環動態、吸入麻酔薬平均使用濃度及びフエンタニル使用量(ug/kg/h)に影響を与えなかった。N型Caチャネル拮抗作用を有するシルニジピンについては、使用症例が不足していたため検討できなかった。これまでCa拮抗薬が麻酔果に与える影響については、一致した見解が得られていなかったが、今回の結果から、術前L型Caチャネル拮抗薬服用は、全身麻酔薬の作用に有意な影響を与えないことが示唆された。 2. ニューロンにおける全身麻酔薬の作用におよぼすCa拮抗薬の効果 シナプス前終末(ブートン)付着ラット海馬CA1領域錐体細胞における、高K^+溶液灌流及びグルタミン酸刺激に対する静脈麻酔薬とCa拮抗薬の効果を検討した。一部の(おそらく興奮性シナプス)ブートンにおける、高K^+溶液およびグルタミン酸の投与による前終末内Ca^<2+>濃度上昇をプロポフォール、ペントバルビタールは抑制し、N型Caチャネル拮抗薬であるGVIA、MVIIAもこれを抑制した。両薬剤の相互作用については今後検討が必要である。神経細胞体と同様に、N型Caチャネル拮抗薬は、中枢神経細胞における伝達物質放出にも影響があることが示唆され、全身麻酔への効果がら期待できると考えられる。
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