研究概要 |
中枢神経細胞における全身麻酔薬の作用について、国際学会であるEuroanaesthesia 2010 (Helsinki, Finland)において発表した。 シナプス前終末からの伝達物質放出に及ぼす全身麻酔薬の作用については、これまでいくつかの報告があるが、未だに結論は出ていない。我々は、シナプス前終末(ブートン)付着ラット海馬CA1領域錐体細胞における、高K^+溶液灌流による脱分極刺激に対する静脈麻酔薬(プロポフォール、ペントバルビタール)の効果を観察し、Ca^<2+>チャネルに対する作用について考察した。シナプスブートンにCa^<2+>蛍光指示薬であるfluo-3を負荷し、共焦点レーザー顕微鏡を用いてシナプス前終末内Ca^<2+>濃度変化を観察したところ、5-90mMの高K^+溶液は濃度依存性にシナプス前終末内Ca^<2+>濃度を上昇させた。ほとんどの興奮性シナプスが分布していると考えられている樹状突起部のブートンにおいて、10μMプロポフォールおよび300μMペントバルビタールは高K^+溶液(60mM)によるCa^<2+>上昇を抑制したが、抑制性ブートンが高率に分布している神経細胞体および樹状突起起始部におけるブートンにおいては、これらの静脈麻酔薬は高K^+溶液(60mM)によるCa^<2+>上昇を抑制しなかった。N型Ca^<2+>チャネルは、シナプスブートンにおいても主要なCa^<2+>チャネルタイプと考えられている。これまでの幾つかの報告から、プロポフォールやペントバルビタールはシナプスブートンにおけるGABA_A受容体に作用することにより、N型を含むCa^<2+>チャネルを抑制する可能性が考えられるが、この点については今後さらに検討が必要である。また、静脈麻酔薬とN型Ca^<2+>チャネル拮抗薬との相加的あるいは相乗的興奮性神経伝達物質放出抑制作用についても、これからの検討課題としなければならない。
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