研究概要 |
[1]術前Ca拮抗薬服用が麻酔に与える影響 過去10年間の九州大学病院歯科麻酔科管理麻酔症例(全身麻酔4674例、静脈内鎮静法1218例)を対象として、術前L型Ca拮抗薬服用症例(472例)より、Ca拮抗薬単剤服用症例(204例)を抽出し検討した。全身麻酔、静脈内鎮静法の各々において、L型Ca拮抗薬服用症例とコントロール症例間で、術中の循環動態変化、プロポフォール・ミダゾラム・フェンタニル使用量、吸入麻酔薬平均使用濃度に有意差は認められなかった(第37回日本歯科麻酔学会総会・学術集会,2009,名古屋)(第20回九州歯科麻酔シンポジウム,2010,宮崎)。N型Caチャネル拮抗作用を有するシルニジピンについては、使用症例が不足していたため検討できなかった。これまでCa拮抗薬が麻酔効果に与える影響については、一致した見解が得られていなかったが、今回の結果から、術前L型Caチャネル拮抗薬服用は、全身麻酔薬の作用に有意な影響を与えないことが示唆された。 [2]伝達物質放出に及ぼす麻酔薬の効果とCa拮抗薬の影響 シナプス前終末からの伝達物質放出に及ぼす全身麻酔薬の作用については、これまでいくつかの報告があるが、未だに結論は出ていない。ラット海馬CA1領域錐体細胞において、5-90mM高K^+溶液は濃度依存性にシナプス前終末内Ca^<2+>膿度を上昇させた。ほとんどの興奮性シナプスが分布している樹状突起部ブートンにおいて、10μMプロポフォールおよび300μmペントバルビタールは60mM K^+溶液によるCa^<2+>上昇を抑制したが、抑制性ブートンが高率に分布している神経細胞体および樹状突起起始部においては抑制しなかった(Euroanaesthesia 2010, Helsinki, Finland)(J Anesth,2011)。3-100μMグルタミン酸はラット海馬シナプス前終末内Ca^<2+>膿度を濃度依存性に上昇させ、3-30pMプロポフォールは30μMグルタミン酸による樹状突起部ブートンのCa^<2+>上昇を濃度依存性に抑制した(IFDAS,2012,Hawaii,USA)。N型Ca^<2+>チャネルは、シナプスブートンにおける主要なCa^<2+>チャネルタイプである。プロポフォールやペントバルビタールはシナプスブートンにおけるGABA_A受容体に作用することにより、N型を含むCa^<2+>チャネルを抑制する可能性が考えられる(日歯麻歯,2010)。
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