本年度研究では、嚥下障害所見がなく産生される異常音について音響特性と嚥下動態について検討した。代表者所属機関にてVF検査を施行した嚥下障害患者のうち、誤嚥、喉頭侵入などの嚥下障害所見がなく、異常音を産生した男性6名、女性6名、計12名(平均年齢68.6歳)を対象者とした。試料は任意の量のバリウム水(200%w/v)をコップより嚥下させVF画像の記録と嚥下時産生音の採取を行った。嚥下時産生音の採取では、聴診器の接触子にマイクロフォンを挿入し、Takahashi(1994)の方法に従い、輪状軟骨直下気管外側上の皮膚に約2.5cm長の両面テープを用いて設置し、VF検査時に嚥下時産生音を採取した。採取した嚥下時産生音音響信号は増幅器にて増幅し、VF画像と共にDV-CAMに記録した。採取したサンプルのVF検査所見と異常音の判定は歯科医師4名が行い、VF画像からは嚥下障害所見はみられないが、異常音を確認できたものを60音得ることができた。嚥下動態と異常音の解析は(株)ダイマジック社製の嚥下時産生音・画像同期解析システムにより、VF画像は30コマ/秒で、音響信号はサンプリング周波数48KHzでAVI形式のビデオファイルとして取り込み、VF画像のフレーム毎に嚥下動態と異常音を確認しながら異常音の発生するタイミングを判定した。音響信号の評価はスペクトログラムによる観察と、FFT分析による定量的評価を行った。検討の結果、異常音は、聴覚的ならびに音響特性ともにいわゆる嚥下音とは明らかに異なっていた。また、異常音の産生は、喉頭挙上前、喉頭蓋反転時、喉頭挙上時ならびに喉頭挙上不全時、喉頭の復位不全時の現象と関連する可能性が示唆されたため、今後もさらに検討を行う予定である。
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