乳歯歯髄由来幹細胞(SHED)および歯根膜由来幹細胞(PDLSCs)は、抜歯された歯から採取可能な間葉系幹細胞である。また、骨細胞などへの分化能を有しており、歯科領域においては顎骨の再生などの臨床応用が可能だと期待されている幹細胞である。一般的に幹細胞は、継代培養を重ねると、幹細胞としての分化能力が低下することが知られている。幹細胞を用いた再生医療の臨床応用には、幹細胞を未分化状態で維持し大量に培養することが必要となる。そこで本研究では、SHEDおよびPDLSCsにおける長期継代培養の影響と培養条件下における幹細胞未分化維持因子の効果について解析を行った。 交換期のため抜去された乳歯の歯髄および歯根から酵素処理によって単離したSHEDおよびPDLSCsの初代培養を行った。その後、トリプシン/EDTA処理によって継代を繰り返し、継代10代(P10)および継代15代(P15)の長期継代細胞群を得た。初代培養細胞群および長期継代培養細胞群に対してそれぞれ、骨細胞および脂肪細胞への分化誘導を行った所、継代を重ねるごとに誘導された骨細胞数および脂肪細胞数は減少していた。SHEDおよびPDLSCsにおいても継代によって分化能が低下する事が明らかになった。一方、長期継代培養細胞群に対して、Wntシグナル伝達経路の構成因であるGSK-3のInhibitorを作用させ、同じように分化誘導を行ったところ、分化した骨細胞数および脂肪細胞数の増加を確認した。また、P15細胞をアパタイト器質と共にヌードマウスの腹部にトランスプラントを行い、トランスプラント体において形成される骨形成量を比較したところ、明らかにGSK-3Inhibitorを作用させた群は、非作用群に対して骨形成が増加していた。以上の結果から、GSK-3 Inhibitorは、SHEDおよびPDLSCsにおける未分化維持因子として作用している事が示唆された。
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