<目的>骨延長術は顎顔面領域においても治療に広く用いられている。しかし、骨延長術では骨硬化に長期の固定が必要となる点は臨床的に大きな問題である。高気圧酸素療法(HBO)は主に虚血性疾患の治療に用いられ、近年では、口唇口蓋裂患者に対して行われる上顎骨延長術後にも適用されているが、その科学的根拠は必ずしも十分ではないのが現状である。イヌの口唇口蓋裂モデルを用いて、高気圧酸素治療が骨延長術後の骨形成促進に作用するという仮説に関して検証を試みた。 <方法>左側口蓋に人工的に作製した骨欠損部へ向かって犬歯を含む移動骨片を近心に移動させて骨延長を行った4匹のイヌに対して骨延長を行った直後から20日間にわたる高気圧酸素療法を行うた。一方、高気圧酸素への暴露を行わない群を対照群とした。骨延長終了後、延長部位に向かって第2前臼歯の牽引を行った。放射線学的分析や、組織形態計測学的な評価を行った。 <結果>高気圧酸素に暴露した群は対照群と比較して、有意な骨形成促進傾向を認めた(p<0.05)。高気圧酸素に暴露した群は対照群と比べ皮質骨塩量密度も有意に高かった(p<0.05)。組織形態計測学的分析を用いて調べた結果、移動歯の添加側において新生骨領域は高気圧酸素に暴露した群が対照群と比較して大きかった(p<0.05)。Peripheral quantitative computed tomography(pQCT)による骨塩量密度測定の結果では高気圧酸素療法群の測定範囲内の石灰化領域は対照群と比べて大きかった。骨延長側の皮質骨領域に関して、骨塩量密度と骨面積、骨塩量は高気圧酸素療法群の方が対照群と比べて有意に大きかった(p<0.05)。これらの結果から、高気圧酸素療法は骨延長部位への歯の移動の際に、その添加側での骨形成が促進される可能性が示唆された。
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