研究代表者は、これまで実験動物にビーグル犬を用い、口唇口蓋裂の顎裂部を想定した実験的骨欠損部に上顎歯槽部の骨延長を行ない、新生骨の形成様相や骨周囲の組織変化の検討から、最近では高気圧酸素(HBO)の影響に関して研究、検討を重ねてきた。今年度、本研究では、高気圧酸素療法(HBO)に基づく条件下で歯槽骨延長を行い、形成された新生歯槽骨へ自家歯牙移植を行う際の歯根膜周辺の組織変化について解析を行った。 方法は、まず、6匹のビーグル成犬を用い、上顎左側に顎裂を想定した10mmの骨欠損を作成した。骨欠損作成より1カ月後、上顎犬歯より第三前臼歯近心までを含む歯槽骨の骨切りを行い、骨延長装置を装着した。3日間の待機期間後、1mm/日の割合で10日間骨延長を行った。骨延長終了後、3匹のビーグル犬に対しHBOを施行し、HBO群とした。また、骨延長のみを行った3匹を非適用群とした。両群ともに骨延長開始より100日後、延長部位の骨を削除し、非延長側の第一前臼歯を移植した。さらにHBO群には再度HBOを施行した。骨延長開始より150日後に屠殺し、マイクロフォーカスX線CT装置を用いて骨密度の計測を行い両群の比較を行った。 結果として、移植歯周囲ならびに骨延長部位での新生骨の骨密度はHBO群において有意に高く、HBOは骨延長部位のみならず、移植歯周囲の新生骨形成においても効果を認めた。 以上の結果より、骨延長部位への歯の移植の際にHBOを応用することで骨形成が促進されたことから、移植歯の早期安定に有用である可能性が示唆された。 本研究は口唇口蓋裂患者の口腔機能再建の新しい治療法を考える上で極めて意義深い研究と思われ、歯科矯正分野のみならず口腔外科分野においても極めて有用な情報を提供することができたと思われる。
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