研究概要 |
自閉症スペクトラム児(以下ASD)の感覚偏倚が摂食機能に及ぼす影響を明確にするために以下の研究を行った. まず,ASDの感覚偏倚の実態を明らかにするためにアンケート調査を行った.対象は地域療育センターを利用しているASDと診断された小児の保護者である.依頼状を郵送し,同意の得られた者にアンケート用紙を送付し記入後返送してもらった.調査項目は偏食の有無,食べない食材の種類,固執する食材の有無,離乳状況,食事における問題点,感覚偏倚(触覚,視覚,嗅覚,音覚),過敏,嫌がる行為(洗顔,散髪など)である. 偏食のない小児は,年齢にかかわらず20%前後であった.極端な偏食(食べない食材が21以上)がある小児は,6歳以下では約20%であったが,7歳以上では10%前後に減少していた.このことより,ASDにとって偏食は大きな問題であるが,年齢があがることで改善する可能性が示唆された. 偏食数に関係する因子を検討した結果,「知能発達程度」「感覚偏倚の数」「離乳状況」「固執する食材の有無」との間に有意な関連が認められた. ASDの摂食時の感覚偏倚として,捕食時上唇を使わない,前歯を使わないことがあげられる.そこで,健康成人を対象に,上唇参加の有無,前歯咬断の有無という条件で摂食を行ってもらい,捕食から嚥下までの舌運動と口唇動作を記録した.その結果,上唇参加の有無により,食塊形成から嚥下までの舌運動に差が認められたが,前歯咬断の有無では両者に差はなかった. 今後は口唇動作の解析を進めるとともに,被験者数を増やし,検討を行っていく予定である.
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