本研究は、ヒト歯周組織構成細胞を用いて、メカニカルストレスによる細胞内シグナル伝達機構を解明しようとするものである。また、歯周病原因子である線毛タンパク質、内毒素性リポ多糖(LPS)やその活性中心であるリピドAならびにリポタンパク質/リポペプチドに対する細胞応答性やこれら病原因子の認識にかかわる細胞受容体の発現に及ぼすメカニカルストレスの影響についても併せて明らかにすることを目的とした。本年度は、メカニカルストレスを標的細胞に加える前に口腔状態に類似した環境を想定して、歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis線毛の分離・精製を行い、前年度に樹立した歯根膜細胞株のうちHLA MHC-DR-αとMMP-1に歯肉線維が細胞と比較して強い陽性反応を示した2種類の細胞株が、この生成物に対して、TLR2チャネルを介してIL-6、IL-8の遺伝子発現を認めた。また、TLR2リガンドであるPam_3CSK_4合成物が上述した生成物と同程度のIL-6、IL-8サイトカイン産生能を示すことを確認した。次に、Pam_3CSK_4存在下で、一軸方向に10%の伸展刺激を1分1伸展の速さでメカニカルストレスを与えた結果、それぞれの単独刺激と比較して有意にIL-6、IL-8の遺伝子発現を示すことがreal time PCRを用いて示された。その他の遺伝子発現としてメカニカルストレス単独では時間的不安定な発現を示すMCP-1についても伸展刺激の開始後、150分をピークとする発現を認めた。しかし、細胞内シグナリングカスケードについては今回の結果からは、NF-κBの発現についてPam_3CSK_4単独刺激の場合と比較してメカニカルストレスによる増強を示す十分な結果が得られなかった。これは、ヒト歯根膜細胞においてはメカニカルストレスによる炎症性サイトカインの発現でNF-κBを介さない経路の可能性を示唆するのではないかと考えられた。今後、これらの細胞株が歯周病原因子の存在下で伸展刺激負荷細胞の情報伝達系のどの遺伝子発現部位で影響のするのか調べるとともに、In vivo実験としてTLR2経路のノックアウトマウスもしくはブラキシズム様のメカニカル刺激モデル動物を作製し、これらの歯根膜細胞に及ぼす影響を調べる予定である。
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